どこまでも透き通る
きらきらと輝く宝石のような海に
釣り糸を垂らしている。
ゆるやかな風が親子をなでている。
もう日は傾きかけていた。
「今日は釣れないね」と子どもは言う。
「そうだね」とお父さんは言う。
「なぁ、つよし」と、お父さんはふいに言った。
「おまえは海が好きか?」
「好きだよ」と子どもは言う。「お魚がいるからすき。」
「そうか、そうだよな、お魚はかわいいよな」
「お父さんは海がきらい?」
「きらいじゃないよ、好きだよ」
「ふーん」
「あのな、おまえはまだ小さいから難しいかもしれないんだけどな」とお父さんは少し間を空けてから言った。
「この海のな、ずーっとずーっと向こうにはとってもとっても大きな国があってな。たくさんたくさんの人が住んでるんだ。」
「知ってる!アメリカ!」
「うん、アメリカではない」
「うん」
「その国の人たちとは、俺たちと見た目がとても似てるんだ。肌の色や髪の毛の色はアメリカの人から見たら区別がつかないくらい似てるんだ」
「うん」
「でも、話す言葉や書く文字も違うし、考え方も違うんだ」
「うん」
「それでな、その大きな国と俺たちが住んでる島の間には、誰も住んでいない小さな島が一つあるんだ」
「うん」
「ちょうど真ん中くらいにあるんだ」
「うん」
「どっちのものだと思う?」
「う~ん」
「じゃあさ、今釣りをしているこの海はだれのものかわかる?」
「う~ん」
「つよしのか?」
「ううん、こんなにたくさん持てないよ!」
「じゃああの、向こうに生えてる木はつよしのか?」
「違うよ!僕のじゃないよ、僕よりおっきいし!」
「そうだよなぁ、お父さんでも持てないなぁ」
親子は釣りをほったらかしにして、空を眺めていた。
「お父さんにあの雲あげるー。」
「いいの?じゃあつよしにはあの雲あげるー。」
「ぎゃー!変なかたちすぎる!ギャハハハハ!」
「なぁこの空は誰のものだと思う?」
「わかんないっ!」
「アッハハハわかんないよなー、お父さんもわかんないや」
そのときだった。
「あ!お父さん、引いてるよ!」
*
それからしばらくして戦争が起きました
たくさんの人が死にました
政治家は言いました
「確認中です」
僕たちはどんどん死んで
その動画がたくさんYouTubeに上がって
それをいちはやくテレビは放送して
専門家が何度もそれを検証しました
「どんな印象を受けましたか?」
詩人も
ラッパーも
バンドマンも
みんな
反戦の歌をうたいました
うたったあとはみんな
ガンジャを吸って
セックスをして
YouTubeを見ました
「確認中です」
政治家は言いました
「どんな印象を受けましたか」
アナウンサーは聞きました
「じっくり検証する必要があると思います」
専門家は言いました
「STOP THE WAR」
ロックンローラーは言いました
「支えてくれた家族に感謝」
ラッパーが言いました
「もっと思想を持つべきだ」
詩人が言いました
「もう二度とこんなことが起こらないようにしましょう」
先生が言いました
「戦争とかマジやばくねー」
女子高生が言いました
*
すっかり日は暮れていた。
「お父さん、今日は釣れたの一ぴきだったね~ゆうごはん足りるかなぁ?」
「おまえなぁ、こないだもそう言ってごはんおかわりしたのに残したろー」
「う~ん…」
「大丈夫、足りるから。きっと足りる。」
そのときのお父さんの顔は、いつになく、とても厳しく見えました。
おわり。
0 件のコメント:
コメントを投稿